らいおん’ viewは嶋田洋平が、これまでに経験し考えたことや、見てきたことや聞いたことを元に感じたことなどをご紹介するコーナーです。これから不定期にお届けしていきます。
さて記念すべき初回は福岡県北九州市のまちのことです。かつてリノベーションまちづくりの聖地といわれた魚町とその周辺のまちが今どんなことになっているか、まち歩きしてみましたのでレポートします。
春も近づいて暖かくなってきた3月2日、久しぶりに故郷に到着しました。まずは小倉駅から歩いて旦過市場へ。大正時代の市場の拡大時期にどさくさに紛れて神嶽川の上に勝手に張り出して河川空間を占拠したといわれている市場の建物。戦後もそのままの流れで建物が残っています。いいですねこういうの。いつだって僕たちをワクワクさせてくれるのは、こういう制度を超えて存在している建物というか状況だと思うのですよね。社会が成熟していく過程でこういうものが次々と姿を消していって衛生的で安全であんまりおもしろくない風景と都市が出来上がってきたのが戦後だと思います。この市場、本当に完成された世界観となっておりまして、失ってしまえば二度と作ることはできない風景であり、空間であります。
昭和的都市空間のイメージを残していて、完成された世界観の旦過市場
残念なことに旦過市場の建物は解体されて再開発されることになっています。
時間を積み重ねることで培われた手触りのようなものは価値としては評価されず、残念ながら今の日本ではほとんど短期的な経済価値にどうしても勝てないですね。再開発には反対なのですが、今の日本人のこういう価値観と現実を受け止めた上で、どんなオルタナティブを提示できるかを考え行動するのが僕たちのような建築やまちづくりに関わる人間の役割だと思っていますが、社会的に実装できるアイデアを持ち合わせていません。
まだまだ自分の力不足を痛感しています。
神嶽川に迫り出した市場の建物
さて、市場を奥に進んでいくと右手に現れてくるのが「旦過うどん」です。ここでお昼とします。
まずはおかみさんにご挨拶。
まずは女将さんにご挨拶
このお店のおでんはとんでもなく美味しくて有名です。
かのリリーフランキーさんの「おでんくん」はこのおでんをモデルにしているといわれています。なにより僕の大好物なのがちゃんぽん。旦過うどんなのにうどんを食べたことがありません。(笑)
リノベーションスクール華やかなりし頃よくユニットマスターたちと一緒にお昼ご飯を食べにきたものです。美味しかった!
おでんくんのモデルと言われる大鍋で仕込まれる旦過うどんのおでん
スープが最高の旦過うどんのちゃんぽん
お腹が満たされたところで、旦過うどんをあとにして「TangaTable」に向かいます。
ここは旦過市場を見下ろすビルの空きフロアだった4階をリノベーションして生まれたゲストハウスです。2015年のリノベーションスクールで提案された事業を北九州家守舎を中心として複数のパートナーと一緒に立ち上げました。タンガテーブルは北九州市小倉魚町のリノベーションまちづくりでは、最大のプロジェクトです。パートナー企業やまちづくり関係者からの出資、民間都市開発推進機構からの匿名組合出資、さらには市中銀行からの融資によって約6000万円の資金調達をしてリノベーション投資を行い特定目的会社・株式会社タンガテーブルが運営しています。僕はその代表も勤めています。
タンガテーブルのダイニング店内と客室インテリア。お皿の壁は北九州市民から寄付されたものをDIYで貼った。
開業後に北九州国際空港に韓国の都市からの直行便が飛んでくるようになったりして、2020年の新型コロナウィルスの感染拡大前までは少しづつお客様も増えてきていました。しかし新型コロナウィルスの影響でインバウンドのお客さまがほぼゼロになってからは国内各所から北九州に来ている長期滞在のお客様がこの場所に暮らしています。
たまたまお店にいたスタッフの梅ちゃんと、ちかちゃんと近頃のお客様の様子について聞いたり、コーヒーを飲みながら談笑しました。
このゲストハウス、コンセプトは「北九州を味わう旅のはじまり」として、小倉をはじめとした北九州を旅する人の旅の玄関口であり、小倉のまちのいろんな人たちと繋がれる宿として、番頭の西方君をはじめとしたスタッフたちによって運営されています。ぜひ小倉にお越しの際はお泊まりください。
それではタンガテーブルと旦過を後にして、ついに魚町に向かいます。(vol.2 に続く)
写真撮影:丹下 恵美