桃、柿、りんごなど多くの農産物が収穫される福島県国見町(くにみまち)は、福島県の中通り北部に位置する人口 約 8,500人* 程度の小さなまちです。( * 2021年現在 )国見町もまた、全国的な社会課題である人口減少や少子高齢化の渦中にあります。また、当時震災から5年を迎え、まちの未来を考える時期にありました。しかし空き家の数は多いものの、使える空き家が少なく、一般的なリノベーションまちづくりを進めるのが難しい状況に。そこで注目したのは、長年、役場の書庫として使われていた公共施設でした。この公共施設を使って、どのようなリノベーションまちづくりが繰り広げられたのでしょうか。国見町 総務課課長補佐兼財政課係長(当時企画調整課)八島章さんにお話しを伺いました。
震災から5年。復興の先に見えてきた景色と、描きたい未来とのギャップ
嶋田:2017年当時、八島さんはどのような業務を担当されてたのですか?八島さん:地方創生の担当として、行政としてすべきことを模索していました。
道の駅を建設したり、第三セクターを作ったり、行政が100%出資してまちの賑わいをつくっていましたね。
嶋田:行政主導の取り組みがメインだったんですね。
八島さん:おっしゃる通りです。
特に、震災以降は顕著でした。国からの復興支援があり、行政の予算が3倍以上になりました。心の中では持続可能ではないと感じながら、予算を消化しなければならない辛い時期でしたね。嶋田:ちょうどその時に、福島で開催された「公務員リノベーションスクール」で、僕が講師をしていて、八島さんの部下の方が参加されたんですよね。
八島さん:はい。その時「すごいレクチャーを聞いてきた!」と、感動して帰ってきました(笑)。当時、一過性なプロモーションよりもシビックプライドを醸成することが大切だと考えて、その想いを嶋田さんにぶつけたんです。
嶋田:それで「まちのトレジャーハンティング」を開催しましたよね。
八島さん:はい。「まちのトレジャーハンティング」とは、チームでまちを歩きながら、空間、建物、人、文化、歴史などの ” お宝 ” を見つけていくワークショップで、様々なバックグラウンドを持つ方々と一緒に、まちの魅力を発掘することでシビックプライドを醸成する良い取り組みでした。そこに、後々、家守舎桃ノ音としてアカリを運営することになる、上神田さんや渋谷さん等も参加してくれていました。
ー 嶋田さんも、民間の空き家や空きビルを探して、リノベーションまちづくりに繋げていこうとしたのですね。
冬の国見町商店街
店舗がまだらで、開店前か空き家かわからない建物も。
嶋田:はい、そのつもりでした。ただ、商店街の1階のお店は閉店していても、2階や奥に住んでいるから貸すことができないという方が多いんですね。それは、国見町だけでなく全国的に起きています。
あと、農家さんの空き家も多いんです。とても大きな古民家ですが、オーナーが国見町に住んでいないこともあり、都市部の商店街のようにはなかなか貸してはくれないし、さらに先祖代々の土地ですから、売っていただくこともできないですよね。
そこで注目したのが、藤田駅前に書庫として使われていた、役場が所有する公有の不動産だったんです。
公共施設を活用したリノベーションまちづくりとは?
役場の書庫だった ”アカリ”
ー どのような施設だったのでしょうか。
嶋田:その建物は、行政の書類などを保管する書庫として使われていました。
藤田駅から徒歩2〜3分で、目の前には公園が広がる、立地にも恵まれた施設です。
草刈りや消防設備や電気代等で、年間100万円の維持費がかかっていましたし、書庫だなんて、僕らの感覚からすると使っていないのと一緒だったので、八島さんに伺うと、八島さんは使っていると(笑)。
そこで、この建物とエリアに、どのような可能性があるのかを考えはじめました。
それと並行して、この建物をリノベーションして、有効活用してくれる民間のチームをまちの中から見つけ、育てていきたいとも話していました。一方で、公共施設を活用するには、持ち主の国見町が意思決定しなければなりません。
それは八島さんが、行政内の調整を頑張ってくれました。
八島さん:とても大変でしたね。
対象施設の管理は総務課で、公園は建設課、私が所属する企画課はまったく関係がなかったんです。部署間の縦割りがあって、温度感がまったく違う。
企画課である私が企画をしても、他の課が汗を掻くことをやりたくないんですよね。
しかも、結果が出るか分からない新しいことなので、なおさらです。その流れで、結構大きく状況が動いたのは、若手チームのやりたいことがだんだんと固まってきて一致団結してきたことですね。書庫を活用するために全職員を動員して中のものを全部出す作業があったんですけど、若いチームが頑張ってくれて。
様々な部署の方たちに、説明できるようになって、各課が動いてくれたんだなと。
2年間くらいかかったので、感慨深いですね。
嶋田:民間のプロジェクトと比べるとゆっくりした進み方かもしれませんが、僕としてはスムーズに動いてくれたという感触でした。嶋田:役場の職員の方々へ向けた、レクチャーも開催しましたね。
八島さん:やりましたね。
嶋田:しかも通常のセミナー形式ではなく、互助会の研修という立て付けにしました。
役場の方々って100人位なのですが、その内、80人位もの方々が聞きに来てくれました。
八島さん:役場の職員って、他の事例を知らないんですよね。
「あ、こういう動きをしているまちや人々がいるんだ」と、成功事例を知るのは、貴重な経験でした。役場にとって、良い薬になったなぁと(笑)。
おかげさまで、” アカリ ” のリノベーション費用をクラウドファンディングで集めた時に、役場の職員が個人で寄付していました。みんなが心の底から応援できるプロジェクトになったのだと嬉しくなりました。
人口8,500人のまちで、シチリアを語る。見たことのない独自のカルチャーが生まれるまち。
ー アカリがオープンして、まちの方々にとって、アカリはどういう存在になりましたか?
人口8500人のまちで、約30席のお店が毎日満席に。
八島さん:オープンした頃は、敷居が高かったようで(笑)。” 意識が高い人” が集まる場所というイメージがあったようです。
でも、アカリの企画運営をしている民間の家守会社(やもりがいしゃ)の方々が、時間をかけながらアカリを育ててくれたおかげで、最近は、町民も違う目でいますね。
2階にあるシェアオフィスが満室で、最近は、シチリア料理店もずっと満席で、ウェイティング状態です。
人口8,500人のまちの飲食店として、近所のおじいちゃんやおばあちゃんが、シチリア料理を日常的に食べに行くという、とんでもないカルチャーが生まれていますね(笑)。
行政として、一つのモデルになったと確信しています。
国見町で採れた野菜
産地からすぐの新鮮さが一番美味しい
ー 幸せなまちですね(笑)
八島さん:シチリアの話題に詳しいおじいちゃんおばあちゃんがいたり(笑)。子供たちも、国見町に住む中学生の 約50% がアカリで勉強しています(笑)。
嶋田:それ、凄くないですか?
八島さん:はい、国見町すごいんですよ(笑)。
(中編に続く)
Photo by Megumi Tange , Text by Motomi Matsumoto