2019年にリノベーションまちづくりをスタートしてから、大きな変容を遂げている「さの町場」。これまで、そのリノベーション物件を初めてお披露目した「まちばのマーケット」の様子や、そこに至るまでの ” 裏側 ” をお届けしてきました。一方で、プレーヤーである ” 家守 ” たちはどのような想いをもって、取り組んでいたのでしょうか? まちの変容の渦中にいる家守たちの話を、リノベーションまちづくりの Another Story としてお届けします。
ー 小道からひとつ小さな門をくぐると、築200年の建築物がたち並ぶ “ くらふとや ”。まちばのマーケットでは、まちば日和というマルシェを開催していました。ここの家守は、8人チーム。今回は、4人のメンバーにお話しを伺いました。
物件は、祖母の家でした
橋本さん:ここは、元々祖母の家だったんです。
長く続く塀にある門をくぐると、長屋のような大きな古民家が何棟も並んでいて、そこに祖母が一人で住んでいました。
お風呂に入るのにも一度外に出て、別の棟に移動しないといけないくらい広くて。祖母の目も悪くなってきたので、ほとんど僕のパートナーの家に移り住んでいたのですが、人が住まなくなると、家の傷みも早くなるので、さてどうしようかと。
ちょうどその時に、お寺でリノベーションまちづくりの講演をやることを知り、参加しました。
僕は、到底、このまちがどうにかなるなんて思ってもいませんでした。でも、嶋田さんの「今から大企業が何百万、何千万円とお金を積もうと、もうこのまち並みは買えない。」という言葉にはっとさせられて。
昔の写真やお雛様など、まちのお宝がたくさん出て来ました
実はそのちょっと前に、僕自身、家を建てかえたんですが、ずっと後悔していたんです。
この魅力的なまちがこのまま無くなっていく様子を見ていてよいのか、という心のひっかかりが、講演会で解放されたのだと思います。
同じ景色を見てきた、幼馴染がチームメンバーに
袋谷(ふくろや)さん:僕も、勉強のつもりで、実践ワークショップに参加したんですよね。
まちや、景色が変わっていることは普段からものすごく感じていて、昔よく通ったあの道に、普通の建物が立って、ここも、そっちも、向こうの方も、どんどん景色が変わっていってしまっているということに、大きなショックを感じていましたね。
幼馴染の二人(左:橋本さん、右:袋谷さん)
リノベーションまちづくりワークショップで偶然にも同じチームに。
同じ景色を見てきたからこそ、想いのこもったプロジェクトになる
袋谷さん奥様:実は、二人は幼馴染なんですよ。
橋本さん:そうなんです。
実践ワークショップの物件提供オーナーとして、参加者の方に、物件の説明をしていました。
袋谷さん:実践ワークショップに申し込んで、対象物件の扉を開いたら、友人の橋本さんが待ち構えていました。(笑)
そして、本当は参加者の僕たちが、家守としてグループを結成するのですが、、
橋本さん:どうしても気になって、実践ワークショップにいろいろと顔を出していたら、リノベーションプランを提案する最終プレゼンテーションの場で、オーナーである僕が家守に誘われるという。まさかの展開で、このグループが結成されました。
見事に袋谷さんにたきつけられましたね。(笑)
ー 良いコンビネーションですね。
今日は4名にお話しを伺いました。運営は、頼もしい助っ人渡辺さん(写真右)によって安定しました
橋本さん:そうですね。まちばの芽のメンバーは、8人。そのほとんどが、実践ワークショップの仲間です。そこにワークショップの事務局をしていた渡辺さんが加わり、最強のチームができました。
リノベーションをしない、リノベーションまちづくり!?
ー 実践ワークショップ後は、どのように進められたのですか?
橋本さん:実はここ、建物自体はそんなに手を加えていないんですよ。お金もそれぞれが3万円ずつ出資した程度で。雑草やいらないものが多かったので、とにかく最初の半年間は、みんなで庭に穴を掘ってましたね。(笑)
伸び放題だった雑草を刈り、穴を掘った場所。今となっては、立派な広場
袋谷さん奥様:「今日、穴掘りに行くけど、行く?」という感じでしたね。(笑)
橋本さん:周囲の人からは、何やってるんだろう?と思われていたと、思いますよ。(笑)
ー 「リノベーションまちづくり」と言っても、建物をリノベーションしないこともあるのですね。
橋本さん:はい、片付けただけです。(笑)
ですがプロジェクトは、しっかりと進めていて月1回のマルシェを開催しています。
今回は、募集よりも出店希望者が集まって、出店希望をお断りしたくらいで。
楽しんでいただけている方が徐々に増えているのだなと思うと、嬉しいです。
「さの町場は、まだ大丈夫だよ」と伝えたい。
ー 今後の展開は?
渡辺さん:だんだん月1回のマルシェに出展いただける方も増えてきたので、常設にしたいですね。カフェや、新鮮な野菜の八百屋さんとか、常に人が賑わう場所になってほしいです。
橋本さん:本当にその通りですね。
この地域の人たちは、住む人が少なくなり、家を売ろうにも売り手がつかず、物件の値が下がり、その間も家は朽ちていくという、なんとも寂しい気持ちを抱いています。
しかもそれに、このエリアは大きな台風に見舞われたことがありました。台風の爪痕が残っていると、「家が崩れて人様に迷惑をかけるくらいなら潰してしまおう」という方が、少なくありません。
僕たちの取り組みで、少しずつ周囲の方のマインドが変わってきている気がします。
もっとこの輪を広げていきたい。周りの方にも、このまちを残していくことができるということが伝わると嬉しいです。
2.家守 吉田和弘さん( 物件 いろりば公園 )
ー 「まちばのマーケット」で、お披露目された物件に加え、今まさに進行中の物件もあります。吉田さんが手がける「いろりば公園」もその一つ。老若男女に関わらず、人々がコミュニケーションし夢を語りあえる場を作りたいと、家守の吉田さんが熱く語っていただきました。
地元のために、事業を起こしたい
吉田さん:昨年の秋頃、地元に戻って事業を展開していくことを決めていました。元々母の実家がこのエリアで料亭をやっていまして、僕も高校生の時までよく来ていたんです。
まさに、古民家をリノベーションして事業をしたいと思っていた矢先、実践ワークショップが開催されていると聞き、喜んで参加しました。
ー 以前から、そのようなお仕事をされていたのですか?
吉田さん:いえ。以前はリクルートという人材系の会社に勤めていました。会社を辞めて独立後、人材・組織開発コンサルタントとして活動しておりました。昨年から東京でインバウンド向け観光事業を立ち上げるも、コロナ禍で方針転換しました。その後国内各地を旅して周りながら、自然・歴史・文化的観点での日本の魅力やポテンシャルに気づき、関西空港があり空の玄関口である泉佐野市を拠点として活動することを決めました。現在は関西エリアでの観光などの新規事業プロデュースや、企業さんのビジョン・戦略創りのコンサルティングの仕事を通じて「エネルギーあふれるまちづくり&組織づくり」に取り組んでいます!
ー この物件に、吉田さんをマッチングさせたのは、嶋田さんでしたね。どうしてでしょうか?
嶋田:吉田さんは、ビジネスマンで編集力がある方だったので、絶対にこの物件が良いと思ったんです。実践ワークショップの時に、この対象物件と、吉田さんを引き合わせました。
この物件のオーナーさんが、メディアで活躍中のフードライターの方で、尚且つワインの講師もされていらっしゃって、文化人でありビジネスマンでした。
元々は、ご両親がオーナーさんで、息子さんさんが継いだ土地と物件だったんですね。
息子さんは、現在大阪にお住まいで、泉佐野に戻らないから、使っていいよと。
オーナーさんと家守との相性は、とても重要です。長い付き合いになりますから。
吉田さん:本当にその通りで、オーナーさんは、偶然にも高校の大先輩だったんですよ。
人々の心に、火を灯せるような公園をつくりたい
ー 今は、更地ですが、これからどのような場を作りたいですか?
吉田さん:昔は、私有地を市に貸して「緑公園」という名前の公園だったそうです。
その公園の名を継承して、「いろりば公園」という火の灯りを起点に人々が憩う場所にしたいと思っています。年齢も、性別も、立場も関係なく、みんなでコミュニケーションをして、夢を語り合える場です。
僕がまちづくりをしている大阪エリアと和歌山エリアのちょうど真ん中に当たります。いろりば公園が起点となって、さの町場自体が囲炉裏のような存在として、大阪全体にそのエネルギーが広がっていくような場になってほしいと願っています。
これからリノベーションを通じて、灯りも使えるようにしていくので、名実ともに、灯りがともる「いろりば公園」になります。エネルギーの高い場を創っていきたいです。
右奥の塀を取り壊せば、いろりば公園に通じ、消防車が通れる道ができる
嶋田:都市計画の観点でいうと、現状ここで火が使えない理由というのは、道が狭くて消防車が入れないから。その塀の向こうには、市営の公園があって、実はこの塀を取り払ってしまえば「いろりば公園」に消防車が通れる道ができ、まちの防災機能が上がるので、火が使えるようになるんです。
ひとつの物件をリノベーションをして、素敵なリノベーション物件が完成するのも良いのですが、まち全体を見渡した時に、防災機能や安全性があがるというまちのリノベーションに展開していくのも、リノベーションまちづくりの醍醐味ですね。
ー 先ほどの、くらふとやさんとは対照的で面白いですね。リノベーションまちづくりは奥が深いです。
吉田さん:多様な人々が集まるエネルギーあふれる場を創っていきたいと思っています。嶋田さんには、素敵な物件をマッチングしてくださり、本当に感謝しています。
Photo by Megumi Tange , Text by Motomi Matsumoto