2023.10.20
VOICE
密なコミュニケーションが生み出すまちづくりのスピード感ーー泉佐野市さの町場「めぐりLab.」Vol.2

対談  西納久仁明(バリュー・リノベーションズ・さのディレクター)×嶋田洋平(らいおん建築事務所)
(対談日2023年4月19日当時、現在泉佐野市副市長)

2ーー女性をターゲットにしたリノベーション施設「めぐりLab.」
嶋田 そんな中、西納さんからまたオーナーさんから物件の相談を受けたと連絡をいただき始まったのが、これからお話する「めぐり Lab.」のプロジェクトです。西納さん、このプロジェクトはどのような経緯があったのでしょうか?

 

西納 今回のオーナーさんとはさの町場で私たちがリノベーションして活用している「SHARE BASE つむぎや」のプロジェクトでお会いしました。
「SHARE BASE つむぎや」はさの町場で3番目に実現した施設で、いま私たちの事業の柱にもなっています。

「SHARE BASE つむぎや」の建物はもともと20年以上使われていない店舗で、いまから5年ぐらい前の大きな台風の被害で瓦が飛ばされた状態でした。普段、泉佐野市は台風の影響が少ない地域なのですが、この時は多くの建物の瓦が飛んだり、電信柱が倒れたり、大きな被害が出ていました。この建物も瓦が飛んで雨漏りする状態を2年間放置してあったようで、ほぼ倒壊寸前の物件だったのです。

市の方からもリノベーションにあたり援助はさせていただくのですが、それよりもはるかにお金がかかりそうだったので、嶋田さんに相談して民間のクラウドファンディングプラットフォーマーとつないでいただき、ここのPRも兼ねてクラウドファンディングを行いました。その中で、こういう取り組みに共感をいただき、不動産オーナーさんから建物は格安で貸していただくかたちになりました。

 

この経緯を「SHARE BASE つむぎや」で発信していったこともあり、その時からさまざまな不動産オーナーさんが相談をしてくださるようになりました。

その後、女性活躍の拠点をつくりたいという相談がバリュー・リノベーションズ・さの(VRS)の方に寄せられ、「SHARE BASE つむぎや」から徒歩1分ぐらいのところの物件でプロジェクトを進めることになりました。それが「つむぎや Amenity」です。しかしプロジェクトの推進中に認識のズレなどの事態が生じて、当初予定していた建物を借りれなくなってしまい、別の物件で進めることになりました。

 

その、ほかの物件というのがだいぶ広かったのと、家賃が少し高かったので躊躇していたのですが、最終的には誤解が解けて、「つむぎや Amenity」は当初の計画通り、「SHARE BASE つむぎや」の近くで実現しました。

そして、その時に検討したほかの物件というのが、今回の「めぐり Lab.」の施設となったのです。

嶋田 なるほど。いろいろ少し複雑ですが、いま西納さんのお話に出てきた「SHARE BASE つむぎや」について少しお話した方がよいですね。

この場所は泉佐野駅徒歩30秒くらいに位置する物件ですが、もともとは空き家で、バリュー・リノベーションズ・さの(VRS)でリノベーションして今はさまざまな人が出入りするコミュニティベースとなっています。

バリュー・リノベーションズ・さの(VRS)は市の組織でもあるので独自の予算を持っているんです。普通予算を持っているとそれをふんだんに使って建物をできるだけきれいにしようとしてしまうのですが、西納さんはリノベーションに関しての知識をお持ちだったので、どうお金をかければよいかとか、行政がつくったとしても稼げるようにしないといけないと考えていらっしゃいましたよね。

クラウドファンディングを使ってPRをしつつ、主婦のみなさんが集まってお菓子づくりをしたり、プチ起業したい人がキッチンを使ってマルシェをしたり、そういった活動を引き受けてちゃんと稼いでいます。民間企業のような回収率ではないですが、投資したものを少しずつでも回収していこうという動きがあり、そういう状況が建物自体をよいメディアにしています。空き家がこんな風になるのかとほかのオーナーさんにも伝わることで、新しい相談へと繋がっていっているのではないでしょうか。

ところで、「SHARE BASE つむぎや」でアメニティはもうすでに出来上がっていたので、新たな女性の拠点となる場所を作りたかったということでしょうか? それが「めぐりLab.」ということですか?

SHARE BASE つむぎや

つむぎや Amenity

西納 いや、「めぐりLab.」はそのあとの話で、「SHARE BASE つむぎや」の近くに、もともとラウンジをされていた空き店舗を活用してくれないかとオーナーさんからお話があり、ここで女性の就業支援の拠点とすることを目的として、カフェの運営を継続しながら場を使っていく「つむぎや Amenity」をつくったのです。

ただ先ほどお話したように、このプロジェクトが一旦頓挫しかけてしまい、その時に「SHARE BASE つむぎや」で行ったクラウドファンディングの取り組みに参加していただいた不動産オーナーの方に相談すると、空き物件を提供してくださいました。それがいま「めぐりLab.」になっています。最終的に「つむぎや Amenity」は無事に当初計画した場所で運営が始まっていて、起業をしたい女性たちの支援など、さまざまな活動が展開されています。

嶋田 なるほど、「めぐりLab.」の計画が始まる前に、女性を支援する施設がすでにつくられていたんですね。なので今回の「めぐりLab.」のテーマは「つむぎや Amenity」とはまた違ったものになっているんですね。いろいろ経緯があったようですが、「めぐりLab.」が計画された建物は古いタオル工場か何かだったと推測されますよね。規模で200平米少し。木造の古い工場です。入るとすぐ土間があって、土間の周りに部屋がある配置です。建物は工場兼住居だったようなので小部屋がたくさんありました。小部屋のひとつひとつを借りれるようにして、起業したての小さい場所を探している人たちに使ってもらえる場所にしたらどうかとコンセプトを考え、バリュー・リノベーションズ・さの(VRS)が全体を借りて個別に転貸する方法を提案しました。その時にどういうコンセプトにするか。
西納さんはどんな風に考えていらっしゃいましたか。

西納 この場所の計画を始めたのは、国の補助金を使わないかと行政から提案があって、ちょうど私たちバリュー・リノベーションズ・さの(VRS)が法人化した去年2022年5月頃のタイミングでした。なので自分たちで稼げるようでなければいけないという状況があり、収益性が見込める物件を探していたんです。その時に以前にご相談をいただいたこの物件のことを思い出し改修する計画を立てました。

改修にあたっては費用がかかりそうだったので国の補助を入れながら行い、事業提案をするにあたっては昔この界隈で行われていた夜店の復活を施設の中で行えないかと考えていました。

ただ進めている中で、この建物が泉佐野市で開催された「リノベーション実践塾」という空き物件を活用して事業プランを検討し実践につなげるワークショップ」の対象建物となり、その時実践塾に参加された方が「養生とウェルビーイングを達成できる「癒し」を提供できる場所」というテーマのもと、女性をターゲットとした事業コンセプトを立ててこの場所での活動を希望されたのです。なので是非そのコンセプトでやっていこうという話になりました。

嶋田 この場所が女性の健康と癒しをテーマにした「めぐり Lab.」というコンセプトになったのは、そういった経緯があるんですね。使われ方のイメージスケッチを描いてお渡ししましたよね。女性をターゲットに収益事業を行うにあたって、女性のみなさんの働きたいという希望やニーズは多いと感じていらしたのでしょうか。

西納 ちょうどコロナの時期、いままで自分たちの生活基盤について意識的でなかった女性のみなさんが、ご主人がリモートワークになったり、残業もなくなったことで家計収入が激減し、自分たちも働かなければいけないと感じたそうなんです。ずっと家に居る生活から、できることを求めて女性が外に出始めた。そんな状況の中、自分も何かプチ起業してみようかなという方が一気に増えた印象があります。

嶋田 僕は「めぐり Lab.」の構想を聞いて、飲食系の仕事をやりたい人、美容系の人、モノづくりを希望する人、さまざまな人たちがごちゃっと集合しているイメージを持っていました。途中からだんだん美容系事業の色が強くなってきたので、女性向けの場所にしようというかたちになってきたのだと思います

どのような場所としていくかが固まり、実際にリノベーションの計画・工事に入っていきましたよね。全体は西納さんが動かしてくださり、リノベーションに関してのノウハウを用いて計画のチェックは僕たちが行いました。用途変更の確認申請が必要とならないように一部を隠蔽して区画し、200平米を超えない建物の使い方ができるようにしました。コストを考慮したり既存を活かすために排煙をちゃんと取ったりなどテクニカルな部分で知恵を出しています。
ここではどんな方々がどんな事業をされるのでしょうか?

西納 基本的にはリノベーション実践塾に参加された方を中心に入居していただいていますが、いざ場所ができて実際に動き出す段階になると、稼がなければいけないということが重荷になる方も出てくるんです。そういったことはどんな施設でも起こるので、想定しています。ここでは最終的にエステサロンとネイルサロン、占いをされる方が入ってスタートしました(対談日2023年4月19日現在)。

 

エステサロンを運営する方はもともと大阪市内で出店されていたのですが、コロナで休業を余儀なくされたそうです。いろいろと調べるうちに住まいがある泉佐野市の「SHARE BASE つむぎや」でスペースを借りれることを知り、コロナが落ち着くまでこちらでやろうと関わっていただいたのがきっかけで、今回「めぐりLab.」の計画にあたって手を上げてくださいました。住まいが泉佐野市だったこともあり、職住近接での働き方を模索されていたようです。この方は自分のお店だけでなく、この場所のリーダーシップも取りながら周りの人に声をかけてこの場所への入居も働きかけてくださったのですが、こんな風にリーダーシップのある方に場所が引っ張られていくとよいのではないかなと思います。

(対談写真 撮影:中村晃)

(めぐりLab.竣工写真 撮影:中村晃)

(VRS事務所写真 提供:一般社団法人 バリュー・リノベーションズ・さの(VRS))

Text by Mitsue Nakamura