2023.09.15
VOICE
バングラデシュ・ダッカ南(旧市街)の都市開発に日本のまちづくりの知見をーーDHAKA CITY NEIGHBORHOOD UPGRADING PROJECT Vol.1

対談  三木はる香(世界銀行)×嶋田洋平(らいおん建築事務所)

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日本各地のさまざまなまちづくりに関わってきた知見を生かして世界の途上国の都市開発に提案を行ってもらえないか? 2019年の春頃、バングラデシュ・ダッカでの都市開発に携わっていた世界銀行の三木はる香さんから相談がありました。

バングラデシュの中央に位置した世界有数のメガシティであるダッカは、商業・工業の中心地で綿加工や食品加工などの製造業が盛んな街です。同時に政治・文化・教育・経済活動の中心地でもあり、都市のインフラは急速に整備されています。しかし急激な人口増加の中で深刻な交通渋滞や公害、公共サービスの不足といった事態を生み、住環境の悪化や治安の低下といった社会問題を産んでしまっています。こうした中、各地の都市開発を支援する世界銀行では、ダッカに立ち上がったダッカ・サウス・シティ・コーポレーション(DSCC)と共に都市整備基盤づくりを進めています。

今回は世界銀行の三木はる香さんと嶋田が、ダッカにて進行中の事業(南ダッカ(ダッカ・サウスシティ・コーポレーション DCNUP))についてお話しします。

ーー世界の途上国における都市開発と世界銀行の役割

嶋田 今日はバングラデシュ・ダッカの都市事業について、ダッカでのまちづくり事業をサポートし、われわれにまちづくりに関しての相談をしてくださった世界銀行の三木はる香さんとお話をしていきます。

まず、三木さんは世界銀行にお勤めですが、世界銀行でどのようなお仕事をなさっているのでしょうか?

三木 私は世界銀行の都市開発、日本の自治体でいうと都市整備局のような場所に勤務しています。世界銀行は世界各地にあり、都市整備の職員もそれぞれの国にいて都市開発の仕事をやっているのですが、私の場合は、途上国で都市開発を行う仲間や途上国の自治体の皆さんをサポートしていく役割を担っています。

嶋田 東京の世界銀行のオフィスにそういう部門があるのですか?

三木 はい、ご理解の通りで、東京開発ラーニングセンター(TDLC)というチームに属しています。TDLCのミッションは日本都市開発の知見を途上国の都市開発につなげるというものです。日本に途上国の都市担当者や世界銀行の職員を招待する研修または日本から現地に赴いて技術支援を行っています。都市再生だったり廃棄物のことなど、都市にまつわるさまざまなノウハウを伝える活動を行っています。近々では「気候変動と都市」という訪日研修が予定されています。

嶋田 各国の方を呼んで研修プログラムを実施するっていうことですね。そのためにはみなさんが日本の都市開発についてをよく知っていなければいけないと思うのですが、そういった知見はどのように収集されているのでしょうか?

三木 基本的には沢山の本を読みます。また、日本にある大中小さまざまな大きさの都市再生・都市開発事業のことを調べますし、街歩きも重要です。東京圏に限らず、都市連携パートナーを締結している都市を中心に、さまざまな都市に出向きます。そのほか、省庁の都市関連の委員会で扱われている内容も理解をしています。ほとんどのメンバーはこの研修プログラムを実行していくことに携わっているのですが、私はそこを数年前に卒業し、次のステップとして各国における実行をサポートする仕事をしています。

それはどういうことかというと、日本にいらした皆さんはさまざまな都市で実践されているまちづくりを視察されるのですが、「横浜で見たこういうこと」とか、「北九州で見たこんなこと」を自国に戻ってまちづくりに取り入れたいという話が出てくるんです。そういった時に私がリクエストがあった場所(世界の都市)に出かけていき、技術協力を持ちかけます。

具体的には、途上国でのまちづくりに、日本でのまちづくりを推進している元気な建築家に事業参画をしてもらう。世界の途上国で必要とされている日本のまちづくりの知見とそれを持っている日本の建築家との仲人みたいなことをやっているんです

嶋田 途上国にも世界銀行のプロジェクトチームがあって、現地の公務員もいて何かやろうとしている時にテーマがあって専門的な技術協力を求められた時に、日本からそれに適した人材を探し出し、一緒にチームに加わってもらうということをやっていらっしゃるんですね。

三木 そうです。そのためにまずどんな人がいるかを知ることが大事なんです。この案件だったらこの人がよいなとか、マッチメイクをして、そのあと一緒にそれを実行していくんです。先ほど申し上げたようなデスクリサーチや街歩きはあくまで導入で、多くの場合は著書などで面白いと思った方に、アポを取って会いに行くこともあります。

都市関連のネットワーキングのイベントやセミナーに赴いて、名刺交換をすることも多いです。こうして知り合った方に、新しい方を推薦いただいて、輪を広げることも多いですね。バングラデシュのお話も、嶋田さんにもう一人の専門家で建築家の佐貫さんをご紹介いただきましたね。

嶋田 そんな中、今回のバングラディシュのダッカのお仕事、オールドタウンの再生事業というのはもともとあった事業だったのですか?

三木 はい、進行している事業のひとつでした。ところで嶋田さん、世界銀行の仕事ってどんなイメージを持っていらっしゃいますか?

嶋田 新幹線を通すとか製鉄所をつくるといった国家的な事業に投資しているイメージがあります。日本の新幹線をつくったのは世界銀行のお金でしたよね?

三木 そうですね。いま、ウクライナのように大変になっているところが世界各地にあって、そのような国のインフラはどうするのか、水はどうするのか、住宅はどうするのか。国の基礎基盤をつくるところに関わっていくことも世界銀行の仕事です。

嶋田 基本的には基盤整備なんですね。

三木 そう、都市の基盤整備です。でもそれだけでは足りない。何が足りないかというと、新幹線だけでは街にはならない。

嶋田 そうですよね。

三木
 そこには商店も必要だし、人が住む場所や公園、人が集える場所も必要になります。街はインフラがあれば成立するのではなく、その周辺がどうできていくかが大切ですから。そうなると世界銀行がやっていく都市開発は基盤だけにとどまらないということです。私は実は日本はそこがすごく強くて、面白いコンテンツが多々あるなと常日頃から思っていたんです。そんな時に、バングラディシュの世界銀行の同僚から、こんなプロジェクトがあるので一緒にやってもらえないかと話がきたんです。

世界各国に世界銀行が動かしているプロジェクトがあるので、情報は常にやり取しているのですが、今回の件を依頼してきた彼はシンガポール人で日本に研修で来たことがあったため、日本のことを知っていて経験値もあったので、彼が扱っていたバングラディシュの案件と日本のまちづくりがマッチするのではないかと感じたのだと思います。それで「関心がないか?」と話をしてきました。基盤整備に関してのいろいろなプロジェクトがあったのですが、その中にダッカサウス市の旧市街に公民館を20個つくる計画、DHAKA CITY NEIGHBORHOOD UPGRADING PROJECT(DCNUP)があり、私の方でここには日本のまちづくりの知見が生かせるのではないかと思い、ピックアップしました。手を挙げたものの、その時はまだ誰とできるかのイメージはありませんでした。その後たまたま嶋田さんの事務所を訪ねさせていただく機会があっていろいろなお話を聞いて、嶋田さんにこのプロジェクトに提案をしてもらえるのではないかと思いました。

嶋田 お仕事の前に一度お会いしていましたね。三木さんがピックアップされた案件というのが、バングラディシュ・ダッカのオールドタウンの公民館を20個つくる計画で、それに世界銀行が融資をするというものだったんですね。

三木 具体的には都市界隈の再生なので、道路を整備し、水はけをよくするとか、いろいろな事業が同時並行的に進む中で、この公民館をつくる計画では、日本の知見が活かせるのではないかと思ったんです。じゃあそういう界隈の再生をやっている人って誰がいるのかを考えていた際に、たまたま嶋田さんにお会いする機会があったんです。

私からすると、彗星の如く現れた感じがしました。笑

嶋田 何かご縁があったんですね。ありがとうございます。

三木 嶋田さんのことは存じ上げてはいたんです。日本の建築家やまちづくりに携わっている方たちのことはいろいろと知っておかないといけないので、趣味と仕事が混ざり合いながらさまざまな方との交流させていただいていました。そういったネットワークの近くに嶋田さんがいらしたことも大きかったと思います。

嶋田 ありがとうございます。お話をいただいたのは、2019年頃ですね。バングラディシュには行ったことがなかったのと、超多湿地域の建築の環境性能もテーマになっていたので、そういうことに知識が深い専門家と一緒にチームをつくろうと思い、大学時代の先輩でベトナム・ホーチミンで活動している佐貫大輔さんにも参画してもらいまいた

三木 佐貫さんはベトナムでのご経験から重要な視点を提案くださり、よいご縁を繋いでいただいたなと思います。

(ダッカの街の様子撮影:嶋田洋平)
(対談写真撮影:丹下恵)

Text by Mitsue Nakamura